太陽からの風 第一指令第一条

 「太陽からの風」読了。

 モノは、巨匠、アーサー・C・クラークの短編集。ラジオSFコーナーで聞いた表題作が懐かしくて、思わず購入。
 他にもう一編、「無慈悲な空」が、やはりラジオSFコーナーで使われていたものだ。こっちはオチをすっかり忘れてた。それでも、聴き憶えのあるフレーズを、懐かしい、懐かしいと思いながら、ページをめくった。

 1960年代に書かれたものであり、さすがに、古い。
 科学や技術だけでなく、世界情勢(もちろん、ここに書かれた未来にはソビエト連邦が存在する)や、モラル、考え方など、ところどころで、どうにも時代を感じさせてしまうところがある。
 中にはつまらない作品もまじっている。

 だが、表題作や、トリの「メデューサとの出会い」のように、時代を超えた普遍性を持つ作品もあり、トータルでは得した気分に慣れた。
 特に、「メデューサとの出会い」のオチにはやられた。最初は冗長だと思ってた導入部が伏線となり、虚実が奇麗に反転する。いいSFを読んだ気持ちにさせてくれる。

 さて、少しだけネタバレすると、「メデューサとの出会い」はファーストコンタクトSFだ。ここに、「一世紀あまりの論争ののち確定された」第一指令なるモノが出てくる。
 要は、「ファーストコンタクトのときにはこうしなさい」という手順書だ。第一指令の第一条には、こう書かれているという。

 第一条 距離を保て

 ”彼ら”が君を十分観察し終えるまで、接近はおろか意思疎通すら試みてはならない

 フムフム、なるほどと思うのは、その場にいないから。現場にいて、どれほど守ることができるだろうか。
 本編にも、こんなやり取りが書かれている。

「とすると、もしほかに取るべき手段がないときは、おとなしく食べられてしまえということなんですか?」
「そういうことですな。みごとな要約だと思いますよ。」

 

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セクシー星新一

(星新一のショートショートについて、一部ネタバレがあります)


 星新一と聞いてセクシーな作品を思い浮かべる人が、はたしてどれくらいいるだろうか。

 もちろん、彼のショートショートはあらゆるネタを網羅している。性的話題も例外じゃない。そもそも、デビュー作が「セキストラ」、性的満足をもたらす機械の話だ。
 けど、エロくはない。

 例えば、美人ロボットを買う青年の話がある。セールスレディがいなくなると同時に、青年はこれ幸い、ガバっと「彼女」に抱きつく。
 けれど、エロくない。

 美しいけど頭空っぽのロボット、ボッコちゃんのお話がある。
 これも、エロくない。

 凶悪な宇宙人。人類の皮膚を溶かすつもりが、服が溶ける薬をつくって、地球にばらまいてしまう。
 楽しいけれど、エロくはない。

 未来社会。性欲を失って行く子供たちのために、ハダカの男女によるテレビ・ショーを放送する話がある。
 これも、まーったくエロくない。

 もっともっと、身もふたもない、えげつないものもある。
 やっぱり、エロくない。

 要は、書きようだとおもう。同じテーマ、同じプロットで、セクシーな仕立てをすることは可能だったろう。
 でも星新一は、できるだけ普遍的な描写や表現に執心した。
 それが星新一の味であり、セクシーさにかけるからといって、どうこう言う問題ではない。


 それでも、セクシーさを感じる話、キャラが、ないわけではない。
 中には、印象深いものもある。独断と偏見で、選んでみた。
(原本が手元に無いので、記憶で書く。誤り等あったらごめんなさい)

 第3位 配達された女の子

 確か「ずれ」に登場。

 なんでもパイプを通じて部屋まで配送してくれる未来社会。
 人生に絶望した青年が、ペンキガスの宅配を頼む。部屋をピンク色に塗り替えるペンキガスは有毒で、青年を安楽死させてくれるはずだった。が、パイプから出てきたピンク色のものはやわらかくて、つかむことができた。

 こんな単純な経験で生きる希望を取り戻す青年が、かえって微笑ましい。
 あとで分かる女の子の正体は、まあ、俗っぽいモノなんだけど、そんな天使もあっていい。


 第2位 グラマーな女ウサギロボット

 確か、「ほら男爵現代の冒険」のいずれかに登場。もはや人間にあらず、ロボット。
 現代のほら男爵の前に現れ、「不思議の国のアリス」のウサギよろしく、不思議の地下世界を案内する。

 何でも知ってて頼りになる、理想のアシスタント。戦闘力も高く、いざとなったら護ってくれる。
 そこに「グラマーな女ウサギロボット」というビジュアルを結びつけたのが、勝利の秘密か。
 妙に印象深いキャラクター。


 第1位 銀色の球体

「処刑」に登場。文字通り、銀色の球体で、人のかたちすらしていない(苦笑)。
 処刑惑星で囚人に持たされる数少ないアイテムの一つで、ボタンを押すと、コップ一杯の水がゲットできる。
 ただし、ある回数を押すと、爆発し、ボタンを押したものをバラバラに破壊する。

 水の無い処刑惑星で生きて行くには、ボタンを押さなければならない。
 ボタンを押し続けていると、いつかは、死ぬ。

 主人公は球体を恐れるとともに、離れることができない。
 主人公(囚人/男)の妄想の中で、銀色の球体は擬人(女性)化される。
 主人公の妄想の中で、彼女は皮肉屋で、冷酷で、従順だ。
 彼女は恐れられ、憎まれ、それでも片時も手放されることは無い。

 彼女にセクシーさを感じる読者は、僕だけではないはずだ。

 なんか、人外ばかり集まってしまったような気もする。
 まあ、いいか。 

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小鼠ニューヨークを侵略 鎖帷子と剣と弓で

 タイトルしか知らない古典が、どんどん復刻されてる。
 うれしいよね。

 小鼠ニューヨークを侵略読了。
 1955年の作品で、長らく絶版になっていた。
 噂には聞いてたけれど、こりゃ大笑い。すぱーと読めちったよ。

 ヨーロッパ。人口6000人の小さな国が、アメリカに宣戦布告する。
 軍は、鎖帷子と剣と弓で武装し、バスと帆船でニューヨークまで進軍。
 そして、恐るべき偶然のなせる技で、戦争に勝ってしまう。

 全編ばかばかしさの固まりだけど、話の運びはしごくまじめ。

「ここに共産党を結成するわけにはいきませんか。もちろん、ただ借款を勝ち取るだけの目的ですけど。」
「他国から金を取って、しかも名誉あるものと伝統的に認められている唯一の方法があります。」
「ある国がお金が必要な場合、合衆国と戦い負ける以上に、その国の利益となる計画はほとんどないというのが事実なのです。」
「5時間も留守にしていたね。合衆国との戦争はどうなったね?」「勝ったよ。」
「大統領閣下。われわれは現在、ある国と戦争状態に入っております。我々は単にこの国と戦争状態にあるのみではなく、この国が戦争に勝ったのだと私は考えています。」
「戦争の進行しているのを発見するために、秘密調査員を使用した世界史で最初の戦争です。」

 小国の国家元首が若くて美人の女王様、というのが気に入った。
 世界中の国家元首が、グロリアナ様の賢こさと聡明さを持つことができれば、世界はもっと平和だろうに。
 遠藤淑子のエヴァンジェリン姫シリーズがなんか重なるが、なんかゆかりがあるのかな?

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もしハウス名作劇場にラヴクラフトが..

 全集完結に合わせて、ラヴクラフトがちょっとマイブーム。
 銀の門の鍵を超えてインスマウスの影を再読(やっぱりこの人の文章は読みにくいわ!)した上で、未知なるカダスを夢に求めてに流れた、わけだけど。

 な、なぜか、頭の中でハウス名作劇場に変換されてしまうのですよ。

 未知なるカダスを求めて、夢の世界を冒険するランドルフ・カーターくんは、ちょっと子供っぽいキャラデザで登場。

 原作にはお供がいないので、アニメとしてはちょっとさびしい。ウルタールで仲良くなったの黒い子猫くんと、ズーグ族(お笑い担当)を、つけてあげよう。ズーグ族は、一匹だけウルタールの猫に食べられずにすんだ、という設定ね。

 裏では、セクシーな土星からのネコ(声は兵藤”エリザベス”まこ島津”バギ”冴子で!)が暗躍。密かにカーターくんの旅を監視または妨害。逐一邪神ニャルラトテプに報告するのだ!

 うわー、もえてきた!

 本編ではさらりと触れられているだけの、老神官アタルの回想話。賢者バルザイと若きアタルが禁断の地に赴くエピソードは、短編「蕃神」をまるまる1話使ってそのまま映像化。
 本編ではただ船で通り過ぎるだけの水没都市でも、エピソードを膨らまそう。幻想的なお話が、1話作れそうだ。
 でもって、グールのピックマンは千葉繁の声で、カーターくんに向かって馴れ馴れしく、「カーちゃん!」とか呼びかけたりする訳。「怪物ガクの街を通る? ムリムリ。悪いこと言わないからさ、いったん現実世界に戻りなよ。教会墓地をぬけてすぐだから。」

 ホント、見てみたいなあ。
 どっか、作ってくれないかなあ。

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ラヴクラフトが好きだから

 というわけで、今回はラヴクラフトネタが分かるひとだけにお送りします。
 説明は抜き! 分かんないヒト置いてけぼり!(ごめん。)

 ラヴクラフト全集7ついに発売。
 ついに、という言葉は、誇張じゃない。なにせ第1集の初版発行は1974年12月だから、じつに30年越し。
 訳者の大瀧氏は、1巻の翻訳に(通常の6倍の)半年かかってしまうと書いている。単なる時間の問題でなく、半年もひとつの仕事に拘束されるのは「職業翻訳家としては自殺行為に近く」、「重版印税だけで丸1年暮らせた奇跡の年」が無ければ、第6集(初版1989年)にも取りかかれなかったそうな。
「長引く出版不況によって、職業翻訳家が未曾有の苦境に落ちいていることをご理解いただきたい」の下りには、本好きとして涙せずにはいられない。

 ラヴクラフトといえばクトゥルフ神話だが、残念ながら第7集には、神話作品はほとんど収録されていない。
 そーゆーわけで(?)、司書の駄弁者さんのトコで紹介されてたクトゥルフ神話ネタの面白サイトを、孫引きしておく。

 邪神占い
 おちゃめなあなたは、どの邪神カナ?

 あずまんが魔王
 ラヴクラフトとクトゥルフ神話と、さらにあずまきよひこをご存知の方限定。
 でもオモシロイ!

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血管を紡ぎ、神経を紡ぎ..カレル=チャペックの「ロボット」


 神経を紡ぐ工場。
 血管の紡績工場。
 一度に何キロメートルもの消化管が流れる紡績工場です。
 それからそれらの部品を、そう、自動車を組み立てるように組み立てる、組み立て工場。

SFの中でも古典中の古典、カレル=チャペックロボット(もしくは、R.U.R.)読了。
 古典中の古典SFであり、この戯曲で初めてロボットという単語が使われた、というのは、皆さんご承知のとおり。

 以前告白したとおり、初めてこの作品の紹介を読んだときは、

「被創造物が創造主に反旗を翻すというプロットは、ごく陳腐に思えた。」
「世の中には、たまたま歴史に名を残してしまうひとがいる。彼(チャペック)もそんな一人だろう。」

なんて風に思った訳だが、実際読んでみると、予想通り(?)、見事に打ち砕かれました。

 確かに素晴らしい。古典の名に恥じない傑作だ。

 人物造形や唐突な展開など、難点が無い訳でもないが(ロマンス部分がかったるいとかね)、そんな些細な欠点を補ってあまりある、チャペック式ロボットの存在感。

「その水みたいなもので、望むものをなんでも作れるのです。例えば、ソクラテスの頭脳を持ったくらげとか、50メートルもあるミミズとかです。」

「最初人造犬を作ろうとしました。これは数年かかりましたが、できたのは出来そこないの子牛のようなもので、数日で死んでしまいました。」

「人間の組織的構造を一目見て取るや否や、これはあまりにも複雑だ、よい技師ならもっと簡単に作れると分かったのです。」

「労働のために直接役に立たないものはすべて捨ててしまいました。」

 ここまでで、ほんの序幕に過ぎないのだから、恐れ入る。

 もともとが舞台脚本だそうだが、映画化してもおもしろいかも。

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ヌララかわいいよヌララ

 相変わらず、創元文庫のキャプテンフューチャー復刻を読んでる訳だが、ヌララのイメージがアニメ版とまったく違うのには、かなりびっくりだ。

 ヌララといえば、キャプテンフューチャーの不倶戴天の敵にしてライバル、ウル・クォルンの情婦なのだが、お色気というにはちょっとトウの立ちすぎたアニメ版に比べ(おぼろげな記憶では、なんとなくジオン公国のキシリア閣下みたいなイメージがあるのよ(苦笑))、小説版の描写は妙に若々しい...というか、はっきり言って幼い

 この火星娘、創現文庫の鶴田画伯のイラストと相まって、なんともかわいらしいのだ。

 はっきり言って、オフィシャルヒロイン(?)のジョオン=ランドールより、ずっと魅力的だと思う。彼女をヒロインにしたほうが、よかったんじゃなかろうか。

 ま、名前はヘンだけどさ。

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キャプテンフューチャー/恐怖の宇宙帝王

 というわけで、創元文庫のキャプテンフューチャー第1巻読了。

 なつかしいなあ。恐怖の宇宙帝王ですよ!?

 僕の頭に入っているのは、あくまでアニメ版のキャプテンフューチャーなので、どうしてもそれと比較しながら、思い出しながら読むことになる。

「ああ、こんなエピソードあったなあ」

「こんなガジェットもあったなあ」

 てな感じで。

 人間を猿に逆戻りさせる先祖帰り
 壁を通り抜ける宇宙帝王。
 どんな惑星でも活動できるように、重力をコントロールする装置。
 原住民に変装して侵入操作するオットー。
 病院に閉じ込められるキャプテンとジョォン。

 こうして読み返してみるとアニメ版は、原作のエッセンス、面白さを上手く取り出していることが分かる。

 確かに、違いはある。

 キャプテンフューチャーの性格が、より洗練された...というか、清廉潔白なおぼっちゃんになっていたり。
(アニメと比べると、原作のキャプテン、けっこうガラ悪いのよ。)
 そのへんは、品行方正(?)な初期のNHKアニメとして、仕方ないと言えよう。

 むしろ、改変はどれも必要なものだったと思うし、これだけの改変をほどこしながら、原作に忠実な印象を受けるアニメ版は、すごいと思う。

 なにしろ、いろいろ観測が進んだ現在では無理がある「太陽系での冒険」を、銀河系に移し替えるという、大手術まで行っているのだから.

 なんか、小説の感想を書くつもりが、アニメの感想になってしまったが、小説も面白ろうございました。
 創元さん、レンズマンと同じく、キャプテンフューチャーもコンプリートしてくださいね!

 おまけ。キャプテンフューチャーの詳しいサイトはこちら!
 http://www.dec.sakura.ne.jp/~demone/cf/
 

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キャプテン・フューチャーの帰還

 レンズマン・シリーズに続き、キャプテン・フューチャー・シリーズが、全集で出るそうだ。
 キャプテン・フューチャー・シリーズといえば、もちろん、レンズマンに負けず劣らぬスペースオペラの傑作だ。
 訳が野田昌宏(=元帥にしてガチャピンのモデル)さんだとか、表紙とイラストが鶴田謙二(チャイナさんかわいいけどもっと仕事して!)だとか、そんな月並みなことは、とりあえず置いておいて。書いておきたいことを、書こう。

 僕にとってはどちらも、アニメ版が初対面という共通点があったりする。だからこの作品もレンズマンとおなじく、どうしてもアニメの印象と比べるところから始まる。レンズマンのヒロイン、クリスは小山茉美の声で話すし、キャプテン・フューチャーのジョオンランドールは増山江威子ヴォイス。
 ところで、初登場時はどっちも看護婦だったことが判明(*1)して、妙なシンクロニシティを感じたり。

 まだ読み始めたところなので、とりあえずは、こんなところで。

*1
 ジョオンの場合は、侵入捜査のための変装(?)だったのだが。
 にしても、なぜ看護婦? 2作品はほぼ同時代の作品だが、時代が「看護婦萌え」だったのか?

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宇宙戦争

 あの宇宙戦争再映画化されるという。
 2005年公開と言うから、もう来年ではないか。
 あのスピルバーグ+トムクルーズのマイノリティーリポートコンビということで、いやがおうにも「不安」が高まる...というのは冗談だが、ちょっぴり不安になるのは事実だ。

 ウエルズの原作に登場する火星人は、とても恐ろしい。
 彼らに比べれば、人間を「生きたおもちゃ」にするマーズ・アタックの火星人のほうが、まだ人間らしい。マーズ・アタックの火星人は楽しみながら人を殺すが、ウエルズの火星人はおそらく何も感じていないからだ。 彼らはまるで、雑草を刈るように人を殺す。

 ある意味、世界最初の「宇宙人侵略SF」で、ウェルズは「宇宙人」を極めてしまった。
 人類とまったく異なる、知的生命体。姿形だけでなく、メンタリティも。
 それこそが「宇宙戦争」のキモであり、映画化するなら、ぜひとも、そのへんを生かしてほしいものだが...。

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