マントの思い出

　最近とんと見なくなったが、昔はどの家にも、風呂敷の１枚や２枚、あったもんだ。
　風呂敷を見つけたら、もう、やることは決まってる。

　そう、マントをつくるのだ。

　出来るだけ大きな風呂敷、それも、ちょっと丈夫な奴がいい。
　不細工な結び目ができてしまうのには、まあ、目をつぶろう。

　風呂敷がマントになった瞬間、男の子は、ヒーローになるのだ。

　なぜヒーローがマントをつけるのか。その辺りの経緯はよくわからない。
　ひょっとしたら、三銃士などの近代ヨーロッパヒーローが源流なのかもしれない。だとすれば、近代ヨーロッパのファッションそのものに行き当たるのか。
　ばっとマントをひるがえすアクションは、映画でも、映画以前の演劇でも、さぞ見栄えのしたものだろうと思う。
　
　マントを明確にヒーローのトレードマークとして用いるようになったのは、コミックのスーパーマンだろうか。
　赤いマントという印刷映えするデザイン。また、「空を飛ぶ」という、いかにもスーパーマンらしい特徴を描くための、記号としてのマント。
　スーパーマンがヒーローの代名詞になると同時に、マントがヒーローのシンボルになってしまったのも、しかたないというところか。

　ところが、日本の特撮ヒーローは、マントを着けなかった。

　ウルトラマンはマントをつけていない。仮面ライダーもしかり。
（ひょっとしたら仮面ライダーのマフラーはマントを意識してるかもしれないけれど。）
　どういうことかといえば、ズバリ、アクションの邪魔だということだろう。
　三銃士のような剣劇ならともかく、ウルトラマンのようなプロレススタイルや、仮面ライダーのような空中アクションには、マントは邪魔だし、むしろ見栄えを悪くする。
　きわめて合理的な理由だったのだろう。

　とはいえ、やはりマントはほしかったのだろう。

　科学戦隊ゴレンジャーでは、小さなマントをつけることで、アクションでも邪魔にならないようにしている。その分、マントの印象は薄いが、致し方ないところ。
　極めつけはザ・カゲスターで、従来の特撮アクションでは考えられないような大きなマントをつけ、ひたすら、マントが映えるようなアクションを試みた。「マント技」というひとつのカテゴリができるほどだ。それが成功だったかはともかく、なんとも印象深い。

　一方アニメはどうだろうか。

　黄金バットは黒いマントをなびかせていたが、ここでは「マントをつけたロボット」をあげてみよう。
　マントをつけたロボットとは、ちょっとヘンな感じだ。やわらかなマントは、無機質なロボットに合うように思えないからだ。しかし、マントのようなデザインを施されたロボットは、たびたびアニメに登場した。

　一番有名なのは、ゲッターロボだろう。初めて見た時はとても意外な気がしたが、かっこいいデザインとして定着し、続編のゲッターロボＧ、真・ゲッターロボにも受け継がれた。
　鉄腕アトムのヴァリアント、ジェッターマルスも、飛行時にはマント様のデバイスを広げる。「とびますよ」という記号だ。
　印象的なのは、天空のエスカフローネに登場する、エスカフローネをはじめとするガイメルフというロボットだ。そもそもマントを着けるようになった理由が「複雑な背中を描かなくてよくて、アニメーターが楽を出来る」というのが面白い。理由はどうであっても、マントを羽織ったガイメルフは、ファンタジー風の異世界を舞台とするこの作品によくマッチしていた。
　以降も、マントを持ったロボットはたびたび登場する。ガンダムにも、マスターガンダム、ガンダムデスサイズのような、マントを羽織ったガンダムがいることは、書き留めておいていいだろう。

　ほかにも、物理法則を無視した万能マントとして、ヴァンパイアハンターＤとか、アメコミのスポーンとかがあるが、今回はここまで。

（スポーンなんか、家一軒分の大きさのマントなんだよね。映画がショボかったのが悲しい！）