マッドサイエンティスト

　マッドサイエンティストの遠い祖先は、やはり魔術師なのだろうか。
　アーサー王伝説に登場するマリーンあたりが、直系の先祖っぽい気がする。

　後に魔術師の系譜は、占星術師と錬金術師に受け継がれる。
　フラスコや怪しげな実験機材に囲まれ、薬品だの試料だのをこねくりまわす錬金術師。僕たちのイメージの中にある「狂った科学者」と、さほど隔たりは無い。

　ほんとうの意味でのマッドサイエンティストの始まりは、やはり、フランケンシュタイン博士だろう。
　ご存知の通り、生命の秘密を解き明かし、人間の死体からフランケンシュタインの怪物を作り上げた人だ。
　普通なら実現不可能なテーマに挑み、世のモラルに縛られること無く、科学と真理を追究する。研究そのものが自分への報酬。マッドサイエンティストの要素はここに極まっている。
　フランケンシュタイン博士以前にも、たとえばジギル博士（スティーブンソン「ジギル博士とハイド氏」）や、モリアーティ教授（ドイル「シャーロックホームズ」シリーズ）のような人はいるわけだが、前者はまだ常識人だし（非常識なのは裏人格のハイド氏だ）、後者は科学に秀でた犯罪者だ。マッドサイエンティストというには、ちょっとためらいがある。時間旅行者（ウェルズ「タイムマシン」）やリデンブロック教授（ヴェルヌ「地底探検」）もマッドサイエンティストっぽいところはあるが、フランケンシュタイン博士と比べると、やはり「研究熱心で偏屈な科学者」の域を出ない。

　フランケンシュタイン博士がマッドサイエンティストたるところは、やはり、当時のモラルを破っているところなのだろう。死体を勝手に研究に使うことだけではない。当時のキリスト教社会では、「生命の秘密を解き明かす」事自体が、神への冒涜だったのだ。個人的には、神様はそんなケチじゃないと思うけれど、まあ、当時の常識としてはそうだったのだ。

　ぱっと時間はとんで、科学時代の２０世紀。無数のマッドサイエンティストが、物語の中で浪費された。もちろん、ヒーローを苦しめ、そして倒される悪役としてである。
　しかしその中でも、とりわけ異彩を放つマッドサイエンティストもいる。小説では「マッカンドルー航宙記」のマッカンドルーであり、マンガでは「岸和田博士の科学的愛情」の岸和田博士、「That'sイズミコ」「That'sイズミコオカワリ」のイズミコさんなどだ。